本日の要約
結論:今回の混乱は制度変更ではなく『解釈違い』によるものであり、今一度正しい運用を再確認する必要がある。
理由:押印廃止と同意取得義務の関係が誤って理解され、現場で異なる運用が広がっていたため。
何するか:法体系・背景・行政の解釈を整理し、今後の実務で必要な正しい対応を明確にする。
ブログへの訪問をありがとうございます!
今日は、いつもの事業報告はお休みして、昨日調整していた案件について書きます。
読んでいただきたい対象は、区内在勤の介護支援専門員(ケアマネジャー)の方々です。
令和8年3月31日に『ケア倶楽部』に掲載された『介護支援専門員Q&A』の内容についてです。
結論を書くと、利用票には『文書による利用者の同意(署名)が必要だよ』ということですが、今回は、現場に混乱(解釈違い)が生じている原因と行政の回答根拠を書きました。
そのため、専門分野感満載の内容となりますので、あらかじめご了承ください。
では、行ってみよー☆
※今回は、専門職の方々が読まれる前提なため、ケアマネジャーは介護支援専門員と書きます。
※長文になりますが、今後の運営指導に反映される部分ですので必ずお読みいただきたいです。
【前段①:法体系を理解する】
今更の説明であり釈迦に説法だと思いますが、今一度、確認を含め書きます。
※法体系についてすでに理解されている方は、この部分は読み飛ばして前段②以下をお読みください。
2000年に介護保険制度が始まって以降、私たち介護支援専門員は『介護保険法』に則って仕事をしています。
この介護保険法に関する法体系は、下記の図のようになっています。

解説としては、下記のとおりです。
※青字はクリックすると根拠データリンクに飛ぶので、ぜひ今一度ご確認ください。
◆法律:制度の基となる『ルール』
→国会で衆参両院の可決、あるいは衆議院の優越制度により可決されるもので、憲法のあらゆる条項に「~法律でこれを定める」「法律の定めるところにより~」等とあるように、実務上、その制定・改正動向に最も注視しなければならない法令。
→介護保険法は5年に1回見直し。
◆政令:『法律』を施行するための『命令』
→実務上の注目点は、「施行令」として規定されるものは「政令」に位置づけられる。
→ちなみに『命令』とは、行政機関が自らの権限に基づいて定めるものを言い、内閣は、内閣総理大臣と総理大臣に任命された国務大臣(経済産業大臣、環境大臣等)から構成され、内閣が定める『施行令』は『政令』の位置づけになる。
◆省令:所管である厚生労働省が定める『施行規則』
→国家行政組織法の第14条1項では『各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる』と規定。
→介護保険法における省令は『介護保険法施行規則』。
→いわゆる『運営基準』と呼ばれる『指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(厚生省令第38号)』も省令。
◆告示:行政機関が定めて公に示す基準・細目(実務で直接使う『細かいルール本体』)
→国家行政組織法の第14条1項では『各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる』と規定。
→介護保険制度における告示は、『指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準(厚生省告示第二十号)』。
◆通達:行政内部での『やり方・解釈の指示』
→国家行政組織法の第14条2項にて「各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる」と規定されています。
→いわゆる『解釈通知』と呼ばれる『指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準について(労企第22号)』は通達。
→直近整理された運営基準と解釈通知(まとめ資料)
→運営基準と解釈通知両方掲載されている資料(厚労省データを基に作成されたもの)
→いわゆる『介護保険最新情報』の類いも通達。
あえて詳しく書きましたが、これは私たち介護支援専門員が法令に沿って実務を行う専門職として必ず理解しておかなければならない部分です。
ちなみに、介護支援専門員の業務に関する具体的イな取り扱いは『運営基準第13条』に記載されています。
そして、その運営指導の解説が『解釈通知』となりますので、この2つはセットとして必ず理解したうえで業務にあたるよう、今一度ご確認くださいませ。
【前談②:Q&Aができた背景】
まず、令和8年3月31日にケア倶楽部から発信された『介護支援専門員のQ&A』がなぜ作られたかについて書きます。
前提として、介護保険制度は地方分権一括法の目玉制度であり、医療保険と違って保険者(最終的な決定権)は『自治体』となりますが、江東区では事業所に向けた文書発信がほとんどなく、現場は判断に迷った際に都度行政に問い合わせるという状況が続いています。
そして、この『個別的な口頭によるやり取り』が現場に大きな混乱を生じているという悩ましい現状がありました(言った言っていない問題や、担当者によって回答が違うなど)。
これらの事象を含め、現場と行政の乖離(かいり)を減らし、双方が同じ方向を向いて地域福祉の向上に取り組むことができるよう、令和元年に『江東区主任ケアマネジャー協議会』が立ち上がりました。
江東区には、介護事業者連絡会(法人単位で所属する職能団体)がありますが、江東区主任ケアマネジャー協議会は個単位で所属する団体であり、役割の一つとして、毎年テーマを決めて区内在勤の介護支援専門員を対象に現況調査を行っています。
そこで受けた回答をまとめ、令和5年からは行政に『現場の要望』として提言をしていたのですが、令和6年からは、介護事業者連絡会も一緒に、現場と行政の相互理解と地域福祉の向上を目的に『介護支援専門員と行政の意見交換の場』を設けるようになりました。
その際、昨年度の意見交換の場で『行政担当所管の担当者によって解釈が変わるのは現場として混乱する』という意見から、今後、介護支援専門員からの問いに対して行政の回答を文書化しながらベータベース化して、誰がいつ疑問に感じても江東区の見解がわかるよう、文書による『江東区版Q&A』を作っていこうという話しになりました。
そこで、令和7年9月から10月にかけて行政に対する質問を募集し、それを取りまとめて行政に質問しました。
その回答が、今回『江東区版Q&A』として発信されたわけです。
その上で、今回のQ&A発信に伴い、9番目の質疑について一部の介護支援専門員の中で混乱が起きていると聞いたため、改めて行政に回答の根拠を確認していますので報告します。
【質問9について】
問:ケアプラン及び利用票について、支援経過に記載していれば押印は省略してよいか?
答:押印は省略できるが、文書により利用者から同意を得る必要がある。そのため署名等による同意は必要であり、支援経過の記載のみでは不十分と考える。
ケアプランの同意について、「署名+押印」と「署名のみは基準上問題ないが、「押印のみ」は不可。ケアプランについては、「文書により同意を得る」よう基準上明記されている。
利用票についてもケアプランの同意と同様である。
なお、利用者の心身の状況により署名等が難しい事例の対応については、個別に指導係へ相談していただきたい。
一言でいえば、『ケアプランも利用票も利用者から署名をもらうこと』という回答です。
この質疑について、一部介護支援専門員の中で『え?利用票は押印じゃダメなの?』『え?利用票の同意は支援経過に記載でいいんじゃないの?』という混乱が生じているとの話を受けました。
そこで今回、なぜ解釈違いが生じたのかについて、複数の事業所にヒアリングしたので報告します。
解釈違いに関して関心のない方は、その下の【行政の解釈】に飛んでください。
※今回の解釈違いについては、単に介護支援専門員の質が云々ということではなく、単に厚労省の発信が下手なことが現場に混乱を生んだと、私は解釈しています。
【なぜ解釈違いが生じたか?】
デジタルガバメント実現に向けた業務改革の促進に向け、保険者への提出書類については、令和3年4月から押印が廃止されたことを受け、厚生労働省から介護保険最新情報Vol.958にて様式の変更について発出されました。
いわゆるはんこ大臣の発言をきっかけに行政文書の押印がなくなったアレです。
この通達をざっと見た方は利用票の帳票が掲載されているPDF9ページをみて『利用票の押印欄がなくなっているから押印不要ということかな?』と勘違いされたかもしれませんが、通達のPDF21ページ部分にはしっかりと書いてあるのです。
⑬「利用者確認」
居宅介護支援事業者が保存するサービス利用票(控)に、利用者の確認を受ける。ただし、利用者が作成した場合は、記載する必要はない。
『トラップかよ!』と言いたくなるような説明ですが、ここにしっかりと『利用者の確認を受ける』と書いてあるんですね。
おまけに、令和3年度介護報酬改定では、文書負担軽減や手続きの効率化による介護現場の業務負担軽減の推進として、同時期に介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会(第8回)の14ページに、こんな説明を出したものだから解釈違いは確信に変わったようです(下記に資料14ページの図を掲載しますね)。

さらに、厚労省に『悪意か!?』と言いたくなるのは、念押しするかの如く発出した『介護保険最新情報Vol.1049』21ページでも上と同じ図を用いて、注意喚起をしているのです。
『厚生労働省は現場にどんだけトラップ仕掛けんだよ!』と思うし、これは現場の解釈違いが悪いというより厚労省の書き方が極めて不親切で、一定数、勘違いする人がいても仕方がないと私は理解しています。
ここで重要なのは、介護保険最新情報Vol.958の発出を受けても運営基準は変更されていません。
第十三条(指定居宅介護支援の具体的取扱方針)
十 介護支援専門員は、居宅サービス計画の原案に位置付けた指定居宅サービス等について、保険給付の対象となるかどうかを区分した上で、当該居宅サービス計画の原案の内容について利用者又はその家族に対して説明し、文書により利用者の同意を得なければならない。
つまり、この正しい解釈は
電磁的記録(というシステム)を導入した事業所においては文書による利用者同意を省略できるけど、システムを導入していない場合は従来通り文書で同意を得てね。
文書の同意に関しては、行政の押印省略に伴って押印確認はなくなったので署名でよろしくね。
ということになるのです。
これ、法令を踏まえて落ち着いて読めば理解できると思うのですが、全てにおいて発出のタイミングが悪く、現場に多大なる誤解を生じさせており、実際、この通達が出た後、多数の自治体では解釈違いの修正を発出しています。
さらに、江東区が不遇だったのは、これらの通達の確認で介護保険課に解釈の問い合わせをした際、このようなやり取りがされていたことです(事業所より当時のやり取りの記録を見せてもらいました)。
問:先日、かの通達が出たが、利用票の押印は不要なのか?
答:はい、押印は不要になりました(ただし、文書による利用者同意は必要だけどね)。
厚労省の通達に準じて当区は判断しています。
この行政の(ただし、文書による利用者同意は必要だけどね)の説明がなかったため、現場は解釈違いが修正されることなく今まで来てしまった・・・のです。
行政の回答は確かに間違っていない・・・間違ってはいないが説明が足りなかったのです。
ここで重要なのは、どちらが悪いとかそういう話ではなく、大切なのは解釈違いがあったという事実を踏まえ『じゃあこれからどうする?』ということです。
【行政の解釈】
ここでQ&Aの質問9の江東区回答の根拠の説明になりますが、介護保険課に確認を取ったところ、『運営基準及び解釈通知に準じて回答した』とのことでした。
以下、その部分を説明しますね。
◆回答根拠①:運営基準第十三条第十号
十 介護支援専門員は、居宅サービス計画の原案に位置付けた指定居宅サービス等について、保険給付の対象となるかどうかを区分した上で、当該居宅サービス計画の原案の内容について利用者又はその家族に対して説明し、文書により利用者の同意を得なければならない。
◆回答根拠②:解釈通知(8)⑪
居宅サービス計画に位置付ける指定居宅サービス等の選択は、利用者自身が行うことが基本であり、また、当該計画は利用者の希望を尊重して作成されなければならない。利用者に選択を求めることは介護保険制度の基本理念である。このため、当該計画原案の作成に当たって、これに位置付けるサービスについて、また、サービスの内容についても利用者の希望を尊重することとともに、作成された居宅サービス計画の原案についても、最終的には、その内容について説明を行った上で文書によって利用者の同意を得ることを義務づけることにより、利用者によるサービスの選択やサービス内容等への利用者の意向の反映の機会を保障しようとするものである。
また、当該説明及び同意を要する居宅サービス計画原案とはいわゆる居宅サービス計画書の第1表から第3表まで、第6表及び第7表(「介護サービス計画書の様式及び課題分析標準項目の提示について」(平成11年11月12日老企第29号厚生省老人保健福祉局企画課長通知)に示す標準様式を指す。)に相当するものすべてを指すものである。
先に書いたとおり令和3年4月以降、押印は廃止されています。
そのため、運営基準にある『文書にて利用者の同意』の方法は『署名』と判断され、今回の回答となりました。
ちなみに、今回のQ&Aを通じて『え???じゃあ、今まで解釈違いしていた数年間については遡って直さなきゃいけないの???』と不安に思われる方がおられるかもしれませんが、遡って直さないでください(不正になるため)。
解釈違いが生じていた背景や流れに関しては行政に説明しており、今回の回答については『Q&Aが発信されて以降の日(令和8年4月1日)から遵守』とするよう、介護保険課とは話をしています。
そのため、解釈違いをされていた場合は運営指導等で口頭注意を受けることはあるかもしれませんが、令和8年4月1日以前の書類について署名がなくても、いわゆる返金となる文書通知での指導はしないよう話しはまとまっています。
同時に、今後、利用票について署名がない場合においては、文書指導(いわゆる返金)の対象となることがありますので、今後は利用票においても署名による同意を必ず徹底してください。
なお、ご利用者及びご家族の身体状況等により署名が困難な場合は、都度、個別具体的に介護保険課に連絡をしてご利用者氏名と状況を報告し対応を相談してください。
介護保険課とは、問い合わせ結果は必ず記録に残していただくことを確認しています。
【おわりに】
以上が、今回のQ&Aに関して混乱が生じていた部分の解説になります。
長文になりましたが、今回の件は今後のケアマネジメント業務に大きく影響するため詳しく書きました。
今までグレーだったことが、Q&Aの発信により白黒がはっきりしたことで混乱が生じることはあると思いますが、江東区の解釈を明文化していくことは、ローカルルールのデータベース化という意味で大きな意義があります。
ちなみに、3月31日の通達に、今後ケアマネジメントにおける判断に迷うことがあった場合に質問できるQRコードを添付してありますので、業務において判断に迷うことがありましたら、活用ください。
明日からのブログは、今年度の事業報告に戻ります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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