本日の要約
結論:熊本地震の経験から学ぶべきことは、『電気の復旧』と『生活の復旧』は同じではないということです。
理由:電気が戻っても、断水・下水道・トイレ・給水・生活用水の問題は続き、人口と集合住宅が多い江東区では復旧がさらに長期化するおそれがあるからです。
何をするか:今回は、熊本で起きている状況を江東区に置き換え、水・トイレ・在宅避難・地域防災計画の備えを考えます。
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令和8年7月28日に発生した熊本地震から6日が経ちました。
10年前の大地震に続き、熊本県では大きな被害をもたらし、多くの尊い命が犠牲となったほか、辛い避難生活を送られている方も多数おられると思います。
改めまして、地震により犠牲となられた方々に謹んで哀悼の意を表します。
また、被災地の一日も早い復興と、被災された皆さまが、できる限り早く心の平穏を取り戻されることを、心よりお祈り申し上げます。
さて、今回の熊本地震では、地震発生から約3日後の7月31日夕方までに、高圧配電線への送電がおおむね完了しました。
しかし、電気が復旧した一方で、断水や給水、下水道、トイレ、生活用水などの問題は、その後も続いています。
この状況から私たちが学ぶべきことは、『電気の復旧』と『生活の復旧』は同じではないということです。
そして、人口約54万人が暮らし、住宅の大半を集合住宅が占める江東区で、同規模の地震が発生した場合、熊本と同じ速さで生活が復旧するとは限りません。
そのため、今回の熊本地震で実際に起きていることを、遠く離れた地域の出来事として見るのではなく、首都直下地震が江東区で起きた場合に置き換えて考えてみます。
※8月5日の区政報告会でも、この視点から『地域防災計画と備え』についてお話しする予定です。
【7月28日、熊本県で最大震度7の地震】
令和8年7月28日午後4時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とする大きな地震が発生しました。
気象庁は、陸域でマグニチュード7.0以上、最大震度5強以上という名称決定の基準を満たしたことから、この地震を『令和8年熊本地震』と命名しました(気象庁発表資料をもとに記載しています。)。
気象庁は、強い揺れに見舞われた地域では、地震発生から1週間程度は最大震度7程度の地震に注意し、特に発生後2~3日程度は強い揺れをもたらす地震が起きる可能性が高いとして、警戒を呼びかけました。
地震後、熊本県内では広い範囲で停電が発生しました。
九州電力送配電によると、7月31日午後4時44分には、高圧配電線への送電が完了しています(九州電力送配電の発表をもとに記載しています)。
一方で、高圧配電線への送電が完了しても、低圧配電線や各家庭への引込線が断線している場合、停電が継続する住宅があります。
また、住宅そのものが被害を受けた場合には、漏電による感電や火災を防ぐため、宅内配線の安全を確認してから送電する必要があります。
そのため、『地域全体への送電が完了した』ということと、『すべての家庭で安全に電気が使えるようになった』ということは、厳密には同じではありません。
それでも、発災から約3日で高圧配電線への送電が完了したことは、非常に早い復旧だったといえます。
電力会社や関係事業者、全国から応援に入った復旧関係者の懸命な作業によるものだと思います。
しかし、ここで注意しなければならないのは、電気が戻ったからといって、被災地域の生活が元に戻ったわけではないということです。
【電気が戻っても、水が出るとは限らない】
停電が復旧すれば、照明がつき、携帯電話を充電できるようになり、建物に大きな損傷がなければエアコンも使える可能性があります。
猛暑の時期には、電気の復旧は命を守るために極めて重要です。
一方、水道や下水道は、電気とは別の設備です。
電気が復旧しても、水道管や浄水場、配水池、ポンプ、下水道管などが損傷していれば、水は使えません。
八代市では、地震後も給水所の開設、生活用水の配布、上水道の被災状況の確認などが続けられています。
また、ごみ収集、公共交通、医療、介護、保育、学校、公共施設、災害廃棄物の処理など、市民生活のさまざまな分野に影響が生じています。
蛇口から水が出なくなれば、困るのは飲み水だけではありません。
食事を作ることができません。
手を洗うことができません。
歯磨きや洗顔、入浴、洗濯、掃除も難しくなります。
乳幼児のミルクを作る水、薬を飲むための水、傷口を洗う水、介護や医療で必要となる水も不足します。
そして、最も大きな問題の一つが、トイレです。
私たちは普段、蛇口をひねれば水が出て、トイレのレバーを回せば排泄物が流れる生活をしています。
そのため、水道と下水道を別々に考える機会は、ほとんどありません。
しかし災害時には、『水道から水が出るか』という問題と、『下水道に水を流してよいか』という問題を分けて考える必要があります。
【水が出ても、トイレを流してよいとは限らない】
仮に水道が復旧したとしても、下水道管やマンホール、下水処理施設、ポンプ設備などが被害を受けていれば、水洗トイレを使用できない場合があります。
また、断水時に浴槽の残り湯や備蓄した生活用水を使って、便器を流そうと考える方もいると思います。
しかし、下水道管が破損している状態で排水を続ければ、汚水が道路上にあふれたり、マンホールから噴き出したり、建物内へ逆流したりする危険があります。
特に集合住宅では、上層階から流された排水が、低層階のトイレや浴室などから逆流する可能性があります。
自分の家では排水を控えていても、同じ建物の別の住戸が水洗トイレを使用すれば、建物全体に影響することがあります。
このため大地震の後は、水道が出るかどうかだけではなく、行政や管理会社などから下水道の安全が確認されるまで、水を流さないことが重要です。
地震後、最初に水洗トイレを使用する前に、下水道や建物内の排水設備が使用可能かを確認する必要があります。
この認識は、まだ十分に広がっていないと感じています。
【江東区を八代市の状況に置き換えて考える】
今回の熊本地震を首都圏に置き換えた場合、私は、江東区で首都直下地震を考える際には、熊本市中心部のような比較的機能が残った地域ではなく、八代市のように強い被害を受けた地域に近い状況も想定すべきではないかと考えています。
もちろん、地盤、建物、道路、上下水道設備、震源の位置などが異なるため、八代市と江東区で同じ被害が発生すると断定することはできません。
しかし、江東区地域防災計画では、都心南部直下地震が発生した場合、区内の13.7%が震度7、84.4%が震度6強になると想定されています(江東区地域防災計画の被害想定をもとに記載しています)。
つまり、区内のほぼ全域が震度6強以上の非常に強い揺れに見舞われる前提です。
したがって、熊本県内でも比較的被害の小さかった地域ではなく、強い揺れとライフライン被害が発生した地域を参考にする必要があります。
さらに、江東区には都市部特有の難しさがあります。
第一に、人口の多さです。
江東区には約54万人が暮らしています。
地震による被害が広範囲に及べば、限られた数の給水所、避難所、仮設トイレ、支援物資、行政職員、復旧作業員に、多くの住民が一斉に集中します。
人口が多ければ、単に必要な水やトイレの数が増えるだけではありません。
給水所に長い列ができ、道路に人や車が集中し、支援物資を運ぶ車両や復旧作業車が動きにくくなることも考えられます。
区役所や避難所には、問い合わせや要望、苦情も集中します。
復旧に必要な作業量が増える一方で、作業するための道路や空間が混雑によって使いにくくなれば、復旧はさらに遅れる可能性があります。
第二に、集合住宅の多さです。
江東区では多くの区民がマンションなどの集合住宅で暮らしています。
道路の下にある水道管が復旧しても、受水槽、給水ポンプ、高架水槽、建物内配管などが損傷していれば、各家庭の蛇口から水は出ません。
給水ポンプを動かすためには、電気も必要です。
電気が地域に届いていても、マンションの受変電設備が損傷していれば、建物内で電気を使えない場合があります。
さらに、エレベーターが停止すれば、高層階に住む方が給水所から水を運び上げることは非常に困難です。
水は1リットルで約1キログラムあります。
1人分として4リットルを受け取れば4キログラム、4人家族分なら16キログラムです。
これを持って階段を上ることは、若く健康な人でも容易ではありません。
高齢者、障害のある方、妊婦、乳幼児のいる家庭、持病のある方には、さらに大きな負担となります。
【熊本と同じ3日で首都圏の電力が復旧するとは限らない】
今回の熊本地震では、発災から約3日後に高圧配電線への送電が完了しました。
しかし、首都直下地震の際に、首都圏の電力も同じ約3日で復旧すると考えることはできません。
首都圏では、被害を受ける人口、住宅、事業所、電力設備の数が桁違いです。
建物倒壊、道路閉塞、火災、液状化、放置車両などが同時に発生すれば、電力会社の復旧車両が現場に到達できない可能性があります。
また、東京だけではなく、神奈川県、千葉県、埼玉県など周辺地域も同時に被災すれば、近隣地域から簡単に応援を受けられないことも考えられます。
給水車、電気や水道の復旧作業員、バキューム車、医療・介護職、建築関係者など、あらゆる人材と資機材の取り合いになる可能性があります。
国は令和7年12月に首都直下地震の新たな被害想定を公表し、東京都もその内容を分析しています。
東京都は、国の想定について、電力被害など一部に過大または過小評価の可能性があるとして、令和9年3月を目途に、東京の実態に即した被害想定を取りまとめる方針を示しています。
被害想定には一定の幅があります。
しかし、確実にいえることは、熊本で3日程度だったから東京でも3日程度とはいえないということです。
災害の規模は、マグニチュードや震度だけで決まりません。
被害を受ける人口、建物、道路、設備の数、火災の発生、応援の受入れ、復旧車両が移動できるかなどによって、復旧までの時間は大きく変わります。
【江東区では電気よりも水とトイレが長期化する】
江東区が示している現在の復旧目安では、電気よりも上水道や下水道の復旧に長い時間を要するとされています。
電気が比較的早く復旧しても、上水道や下水道が使えなければ、通常の生活には戻れません。
エアコンや照明が使えるようになっても、水がなければ食事や衛生を保てません。
水道が使えるようになっても、下水道の安全が確認されなければ、水洗トイレを使用できない場合があります。
つまり家庭の備えは、電気が復旧するまでの数日だけを基準にするのではなく、水道と下水道が復旧するまでの期間を基準に考える必要があります。
特に携帯トイレは、一般的にいわれる『最低3日分』だけでは十分とはいえません。
排泄回数を1人1日5回と考えると、1人で1週間に35回分、21日間では105回分が必要です。
4人家族なら、1週間で140回分、21日間では420回分になります。
市販されている50回分や100回分のセットは、一見多いように見えます。
しかし、4人家族で50回分なら、1日5回使用すると約2日半でなくなります。
携帯トイレは、購入しただけで安心するのではなく、『家族の人数では何日分になるのか』を確認する必要があります。
また、実際に一度使用してみることも大切です。
便器への袋のかけ方、凝固剤の使い方、使用後の袋の結び方、保管場所、臭いへの対応などは、初めて使うときには戸惑います。
断水し、照明も十分でなく、余震が続き、家族が不安を感じている状況で、初めて説明書を読むのでは遅い可能性があります。
平常時に一度試しておくことが、災害時の心理的な負担を大きく減らします。
【給水所へ行けば水が手に入るとは限らない】
断水時には、自治体が給水所を開設します。
しかし、給水所があるから水の備蓄は不要ということではありません。
給水所までの距離、道路状況、給水車の到着時間、待ち時間、配布量、水を入れる容器、持ち帰る手段など、さまざまな条件があります。
給水所に行っても、水が到着していなかったり、一時的に配布が中断していたりする可能性もあります。
また、給水所に並ぶことができる人ばかりではありません。
高齢者や障害のある方、乳幼児を抱えた家庭、介護をしている方、発熱や持病のある方などは、長時間並ぶこと自体が困難です。
真夏であれば、給水を待つ間に熱中症になる危険もあります。
一人暮らしの高齢者などは、水を受け取れても、自宅まで運べない場合があります。
だからこそ、行政による給水体制だけでなく、地域の中で水を運ぶことが困難な方をどう支えるのかを、平常時から考えておく必要があります。
給水所の場所を知っているか。
水を入れる容器があるか。
台車やキャリーカートがあるか。
家族以外に助けを頼める人がいるか。
マンション内で高層階への水運びをどのように支援するか。
こうした具体的な確認が必要です。
【避難所は、すべての区民が生活できる場所ではない】
大地震が起きたら、避難所へ行けば何とかなると考えている方も少なくありません。
しかし、江東区で想定されている最大避難者数に対して、避難所の収容人数には限界があります。
また、避難所は、住宅が倒壊・焼失した方、自宅にいることが危険な方、特別な支援を必要とする方などが生活する場所です。
自宅が安全であれば、在宅避難が基本になります。
ところが、自宅でトイレが使えなくなった住民が、一斉に避難所のトイレを利用しようとすれば、避難所のトイレは短時間で限界を迎えます。
仮設トイレやマンホールトイレを設置したとしても、清掃、消毒、照明、手洗い、汚物の回収などが必要です。
トイレが汚れると、利用を避けるために水分や食事を控える人が出てきます。
その結果、脱水、熱中症、便秘、尿路感染症、血栓症、持病の悪化などを引き起こす可能性があります。
トイレは、単なる不便の問題ではありません。
命と健康に関わる問題です。
そして、避難所のトイレを守るためにも、各家庭が携帯トイレを備蓄し、自宅で排泄できる環境を整えることが必要です。
【不安をあおるためではなく、困らない環境をつくるために】
ここまで読むと、『そんなに長く備えるのは難しい』と感じる方もいると思います。
すべてを一度に用意する必要はありません。
まずは、自宅にある水や携帯トイレの数を確認することから始めてください。
水が何リットルあるのか。
家族全員で何日分になるのか。
携帯トイレが何回分あるのか。
自宅のトイレに袋を取り付けて使用できるのか。
使用後の汚物をどこに保管するのか。
給水所から水を運ぶ容器や台車があるのか。
少しずつ確認し、足りないものを買い足していけばよいと思います。
重要なのは、災害の直前になって慌てて買い集めるのではなく、平常時から生活の一部として備えることです。
備蓄は、災害への恐怖を強めるものではありません。
災害が起きても、すぐに困らない環境をつくるためのものです。
自分と家族が自宅で生活を続けられれば、その分、避難所や給水所、行政の支援を、本当に必要としている方へ届けることができます。
家庭の備えは、自分のためだけのものではありません。
地域全体を支えることにもつながります。
【8月5日の区政報告会でお伝えします】
8月5日に開催する区政報告会では、『地域防災計画と備えについて』をテーマにお話しします。
江東区でどのような被害が想定されているのか。
避難所には何人が入ることができるのか。
自宅が安全な場合、なぜ在宅避難が必要なのか。
水道や下水道が止まった場合、何日分の水と携帯トイレを備えればよいのか。
地域防災計画に書かれている内容を、できるだけ日常生活に置き換えてお伝えしたいと思います。
今回の熊本地震では、電気が比較的早く復旧しても、断水、給水、生活用水、トイレなどの問題が続いています。
これは、江東区で首都直下地震が起きた場合にも、十分に起こり得ることです。
むしろ、人口の多さ、集合住宅の多さ、周辺自治体も同時に被災する可能性を考えれば、熊本と同じ速度で復旧するとは限らず、より長期化する可能性も想定しておく必要があります。
災害が起きてから、『知らなかった』『備えていなかった』と困る方を、少しでも減らしたいと思っています。
地震そのものを止めることはできません。
しかし、地震の後に起きる困り事の中には、平常時の知識と備えによって減らせるものがあります。
熊本で今、起きていることを知る。
江東区で起きた場合に置き換えて考える。
そして、自宅の水、携帯トイレ、給水容器、マンション内のルールを一つずつ確認する。
電気が戻ることと、暮らしが戻ることは同じではありません。
今回の地震を、ただ恐れるのではなく、私たち自身の命と暮らしを守る備えにつなげていくことが大切だと思います。
【おわりに】
改めて、熊本地震によりお亡くなりになられた方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
被災された皆様が、一日も早く安心した生活を取り戻されることを願うとともに、復旧や支援に携わるすべての皆様に、心より敬意と感謝を申し上げます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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