要約
結論:『1週間分の備蓄』は安心のゴールではなく、発災直後を乗り切るための入口として考える必要があります。
理由:水道・下水道や建物設備の復旧には時間がかかる可能性があり、特にトイレ不足は健康・衛生・避難所運営に直結するからです。
何をするか:今回は、災害時のトイレ問題を通じて、在宅避難者支援、避難所運営、支援者の負担軽減に必要な備えを整理します。
ブログへの訪問をありがとうございます!
昨日、東京都の防災関係の資料と江東区の地域防災計画をぼんやり眺めていた時、気になったことが生じました。
それは、『備蓄に関する呼びかけの受け止められ方』です。
そんなわけで、今日は、災害時のトイレにフォーカスしながら、『1週間分の備蓄』という呼びかけをどう受け止めるべきか、在宅避難者も含めた避難時の対応をどう考えるべきかについて書きます。
では、行ってみよー☆
【1週間分の備蓄は安心ラインなのか】
災害への備えとして、『まずは3日分』『できれば1週間分』の備蓄をしましょう、という呼びかけをよく目にします。
これは、とても大切な考え方です。
もちろん、3日分・1週間分の備蓄を呼びかけること自体を否定したいわけではありません。むしろ、防災備蓄を始める入口としては、とても大切な目安だと思います。
最初から『2週間分、3週間分を備えてください』と言われると、置き場所や費用の問題もあり、かえって何も準備できないままになってしまう方もいると思います。
だからこそ、まずは3日分、できれば1週間分という目安を示し、防災備蓄を始めるきっかけをつくることには大きな意味があります。
一方で、最近少し気になっていることがあります。
それは、『できれば1週間分』という言葉が、『1週間あれば何とかなる』『1週間後には、行政の支援やライフライン復旧がある程度整っている』という意味に受け取られてしまわないか、ということです。
もちろん、東京都や江東区がそのような意味で発信しているわけではないと思います。
しかし、受け取る側から見ると、『できれば1週間分』と書かれていれば、何となく『1週間が一つの安心ラインなのかな』と感じてしまうこともあるのではないでしょうか。
ところが、東京都の被害想定や防災関連資料を見ると、水道、下水道、ガスなどのライフラインが1週間で元通りになるとは考えにくいです。
特に、トイレの問題は深刻です。
食料であれば、多少食べる量を調整したり、支援物資で補ったりできる可能性があります。
しかし、トイレは不足した瞬間に、生活の限界が一気に近づきます。
排せつは我慢し続けることができません。
トイレを我慢するために水分や食事を控えれば、脱水症状や体調悪化につながります。
高齢者、子ども、障害のある方、持病のある方、妊娠中の方などにとっては、健康被害にも直結します。
また、トイレの問題は、個人の不便だけでは終わりません。
使えるトイレが不足すれば、衛生環境が悪化します。
臭い、汚れ、感染症リスク、害虫、精神的ストレス、防犯上の不安なども生じます。
災害時のトイレは、単なる生活用品ではなく、命と健康、そして尊厳を守るための大切なインフラだと感じています。
特に江東区のようにマンションや集合住宅が多い地域では、『水が出たらトイレを流せる』と単純には考えられません。
建物内の排水管やポンプ、受水槽などに損傷がある場合、水道が一部復旧しても、トイレを流すことで下階に汚水が逆流したり、漏水したりするおそれがあります。
道路下の上下水道だけではなく、建物内設備の安全確認が終わらなければ、普段通りのトイレ利用はできない可能性があります。
【備蓄が尽き始めたとき、在宅避難者はどこへ向かうのか】
では、各家庭が『まず3日分』『できれば1週間分』の携帯トイレを備えたとして、その後はどうなるのでしょうか。
私が心配しているのは、発災から数日後、特に1週間前後に、在宅避難をしている方々の備蓄切れが重なって起きる可能性です。
発災直後は、多くの方が自宅にある水や食料、区が配布する携帯トイレで何とかしのぐかもしれません。
しかし、3日分の備蓄はすぐに尽きます。
1週間分を備えていた家庭でも、家族構成や体調、使用回数によっては、想定より早くなくなることもあります。
乳幼児がいる家庭、高齢者がいる家庭、介護が必要な家庭、在宅医療を受けている方、ペットがいる家庭などでは、標準的な目安量では足りない場合もあります。
そのとき、在宅避難をしている方々はどこへ向かうでしょうか。
おそらく、拠点避難所、学校、公園、マンホールトイレ、給水拠点などに、人が集まり始める可能性があります。
避難所に寝泊まりするつもりはなくても、『トイレだけ使いたい』『水だけほしい』『物資だけ受け取りたい』『充電だけしたい』『情報だけ聞きたい』という方が増えることは、十分に考えられます。
在宅避難者も、当然、支援の対象です。
自宅が無事だからといって、困っていないわけではありません。
水道が止まり、トイレが使えず、エレベーターが停止し、情報も不足する中で、自宅にとどまって生活することは、とても大きな負担です。
問題は、在宅避難者を支援するかどうかではなく、避難所に滞在する人、在宅避難者、運営支援者のそれぞれが無理なく使えるルールを、事前に作っておけるかどうかです。
ただし、ここで考えておかなければならないのは、拠点避難所を支える人たちの負担です。
拠点避難所は、行政職員だけで運営される場所ではありません。
実際には、災害協力隊、町会・自治会、学校関係者、地域の支援者、避難者自身など、多くの方々の協力によって運営されます。
そして、その支援者自身も被災者です。
自分の家族、自宅、仕事、健康に不安を抱えながら、地域のために動いてくださる方々です。
その方々に、過度な負担が集中してしまうことは避けなければなりません。
トイレ利用者が増えれば、当然、掃除の手間も増えます。
便器や便座の清掃、床の汚れ、手すりの消毒、トイレットペーパーや消毒液の補充、使用済み携帯トイレやごみの管理、悪臭対策、行列整理、夜間の安全確認、防犯対応など、やるべきことは一気に増えます。
しかも、トイレだけを借りに来る人が増えた場合、使う人と維持する人が分かれてしまうおそれがあります。
避難所に滞在している人や運営支援者が交代で掃除をしている一方で、外から来た人がトイレだけ使って帰る。
汚れがひどくなれば、掃除を担う人の負担は増えます。備品も減ります。臭いも強くなります。
さらに、『汚い』『使いにくい』『もっときれいにしてほしい』といった苦情が、運営支援者に向けられることも考えられます。
もちろん、困っているときに不安や不満が出るのは自然なことです。
ただ、その受け止め役が、地域の支援者だけに集中してしまうと、現場はとても疲弊します。
災害時の現場では、少しの不公平感や一方的な負担感が、地域内の対立につながることがあります。
『自分たちは掃除しているのに、使うだけの人がいる』
『自分も被災しているのに、なぜ責められるのか』
『善意で手伝っているのに、文句を言われるなら続けられない』
こうした気持ちが生まれてしまえば、支援者の意欲は下がります。
支援者が疲弊し、離れてしまえば、避難所運営そのものが不安定になります。
結果として、困るのは避難所にいる人だけではありません。
在宅避難者を含む地域全体が困ることになるのではないかということを懸念しています。
【平時から決めておくべきトイレ運営のルール】
だからこそ、私は、災害時のトイレについては『数を確保する』だけでは不十分だと考えています。
必要なのは、利用ルールと運営ルールを、平時から明確にしておくことです。
たとえば、拠点避難所のトイレは誰が使えるのか。
避難所に滞在していない在宅避難者も使えるのか。
使えるとしたら、どのトイレを、どの動線で使うのか。
避難者の生活スペースに入らずに利用できるのか。
夜間はどうするのか。
防犯上の配慮はどうするのか。
清掃は誰が担うのか。
外部からトイレだけを利用する人にも、清掃や備品補充への協力をお願いするのか。
苦情や要望は誰が受けるのか。
運営支援者が直接すべてを抱え込まない仕組みはあるのか。
こうしたことは、災害が起きてから決めるのは難しいと思います。
混乱の中で急に『使う人も掃除に協力してください』と言っても、なかなか理解を得られないかもしれません。
だからこそ、平時から『避難所はお客様としてサービスを受ける場所ではなく、地域で共同運営する災害時の生活拠点である』という考え方を共有しておく必要があります。
もちろん、体調や障害、年齢、介護、育児などの事情で、清掃や運営に参加できない方もいます。
そうした方々に無理を求めるべきではありません。
ただ、協力できる人までが『利用するだけ』の立場にとどまり、限られた支援者だけが清掃や苦情対応を背負う仕組みでは、現場は長く持ちません。
『使う人も、できる範囲で支える』
この考え方を、もっと丁寧に、平時から伝えていく必要があると思います。
江東区地域防災計画では、災害用トイレの確保やし尿処理、仮設トイレ等の設置・維持管理に関するマニュアル整備、家庭や事業所における災害用トイレの備蓄などが位置づけられています。
また、東京都の東京トイレ防災マスタープランでも、避難所に滞在している人だけでなく、在宅避難者や帰宅困難者など、避難者以外のトイレ利用者が発生することを踏まえた備蓄・整備が必要だとされています。
つまり、在宅避難者が拠点避難所等のトイレを利用することは、十分に想定される事態です。
だからこそ、避難所に滞在する人だけを前提にしたトイレ運営では足りません。
【所感】
そのため、江東区で平時から整理しておくべきことは、主に次の5つだと考えています。
第一に、家庭備蓄の広報をもう少し丁寧にすることです。
『まず3日分』『できれば1週間分』は、備蓄を始めるための目安として大切です。
ただし、それが『1週間で大丈夫』という誤解につながらないよう、『これはライフラインが3日または1週間で復旧するという意味ではありません』と明記する必要があります。
特に水と携帯トイレは、家庭の状況に応じて1週間分以上、できる範囲で多めに備えることも考えていただきたいと思います。
第二に、トイレだけを利用する在宅避難者を想定した運用を決めることです。
避難所に入る人と、在宅避難を続けながらトイレ・給水・物資を利用する人を、同じ動線で扱うと混乱します。
受付、利用時間、利用できる場所、掲示、行列整理、防犯対策などを、あらかじめ考えておく必要があります。
第三に、清掃・消毒・備品補充の体制を具体化することです。
マンホールトイレや仮設トイレを設置しても、清掃されなければすぐに使いづらくなります。
トイレ本体だけでなく、手袋、マスク、消毒液、ブラシ、ペーパー、黒いごみ袋、消臭袋、照明、防犯用品、掲示物なども必要です。
そして、誰が、どの頻度で、どの範囲を掃除するのか。
協力できる利用者にどのように参加してもらうのか。
ここまで決めておく必要があります。
第四に、災害協力隊や町会自治会などの支援者を守る仕組みを作ることです。
災害時に地域を支える人を守ることも、防災対策の一部です。
支援者は、無限に働ける存在ではありません。
苦情や過度な要求を支援者が直接受け止め続ければ、疲弊してしまいます。
要望受付の窓口、対応できることとできないことの明示、暴言や威圧行為への対応、交代制、休憩、外部応援の投入など、支援者を守るための設計が必要です。
第五に、マンション単位でのトイレ計画を進めることです。
江東区では集合住宅が多く、各家庭の携帯トイレ備蓄だけでは不十分です。
管理組合や自治会と連携し、水洗トイレ使用禁止の判断、排水管点検、使用済み携帯トイレの一時保管場所、高層階住民や要配慮者への支援などを、平時から確認しておく必要があります。
災害時のトイレ問題は、単に「携帯トイレを何回分備えるか」という話ではありません。
在宅避難を続けられるか。
避難所が機能し続けられるか。
地域の支援者が疲弊せずに活動を続けられるか。
住民同士の対立を防げるか。
そこまで関わる問題です。
『まず3日分、できれば1週間分』という備蓄の呼びかけは必要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
3日分、1週間分は、安心のゴールではなく、発災直後を乗り切るための入口です。
そして、1週間後に本当に問われるのは、各家庭の備蓄量だけではありません。
備蓄が尽き始めた在宅避難者を、地域としてどう支えるのか。
拠点避難所に集まるトイレ需要を、どう整理するのか。
トイレを使う人と、掃除する人が分断されない仕組みをどう作るのか。
災害協力隊や町会自治会などの支援者に、過度な負担を押しつけないために、区としてルール、物資、人員、苦情対応の仕組みをどう準備するのか。
ここまで含めて考えてこそ、本当の意味でのトイレ防災だと思います。
災害時の避難所は、誰かが一方的にサービスを提供し続けられる場所ではありません。
地域で支え合いながら、何とか生活を維持するための場所です。
だからこそ、平時の今から、区民の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
【おわりに】
トイレは、備蓄すれば終わりではありません。
設置すれば終わりでもありません。
使う人、掃除する人、支える人をどうつなぐか。
そこまで考えて、初めて『災害時に本当に使えるトイレ』になるのだと思います。
次回は、震災発生後から復旧までの目安や、東京都のトイレ防災に関する計画について、もう少し具体的に整理できればと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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